「子どもをマルチリンガルに育てたい」
「マルチリンガルに育てなければいけない」
こう考えたとき、いろいろな情報をインターネットなどを使ってリサーチしますよね。
日本語・英語・イタリア語を扱う我が家も例に漏れず、リサーチにリサーチを重ね、トライ&エラーで進めています。でもやはり、不安はついて回るばかり。
そこで今回はOPOL(One-Parent-One-Language)など、これまで取り組んできた方法を簡単に振り返りつつ、今後どうしていくのか、方針を探りたいと思います。
マルチリンガルとは?
マルチリンガルとは、多言語を扱えることを指します。2言語を扱うバイリンガル(bilingual)、3言語を扱う(trilingual)などという言葉は目にしたことがあるかもしれませんね。
それぞれ”bi-“は”2”を、”tri-“は”3”を表す英語の接頭辞です。これにならって、”multi-“では複数の言語(多くの場合3つ以上)を扱えることを指します。
なぜ私がここで「トリリンガル」ではなく「マルチリンガル」にこだわっているかというと、子ども(マシュー)の可能性を狭めたくないから。
トリリンガルに育てるのでも既に十分大変なのですが、もし将来スペイン語やフランス語、または中国語や韓国語を学びたいと言ったときにはぜひそのようにしてほしいと考えています。
マルチリンガルのメリット
マルチリンガルになると、いくつかのメリットが考えられます。
チャンスが増える
英語を習得したときのメリットとしてもよく挙げられますが、多言語(または他言語)ができると重宝されることがあります。例えばビジネスシーンで英語を主に使って交渉をしていたとしても、相手がノンネイティブなら当人の言語を使うことで距離を狭めることができますよね。
関わる人の母数が増え、コミュニケーション能力が上がる
できる言語が多いということは、それだけコミュニケーションを取れる人が増えるということ。英語は国際言語として有効ですが、やはり現地の言葉を話すと心を開いてくれる度合いも異なります。
例えば義理の両親はフランス語はできますが、英語はできません。やはりイタリア語(またはフランス語)を使わないと、コミュニケーションは取れないわけです。
同じように、旅行に行った先などでも知っている言語を話している人がいると、親近感が湧いて会話に繋がることもあります。
思考力が柔軟になる
多くの人と関われば、それだけ多種多様な人々の考えを目の当たりにすることになります。例えばLGBTQの友人がいたり、文化の違いで全く考え方が異なる友人がいたりと、言語のバックグランドだけでなく人としてのバックグラウンドが異なる人たちの考え方を知る機会が増えるわけです。
その分、「こういう考え方もあるんだ」と柔軟な考え方ができるようになります。「人との違い」を受け入れるスキルがつくと言ってもいいでしょう。
マルチリンガルのデメリット
できる言語が増えれば、良いことだけのような気もしますが、デメリットになり得ることももちろんあります。
それが「セミリンガル」または「ダブルリミテッド」になってしまうこと。
セミリンガル(ダブルリミテッド)とは、母語が確率されず、学んだはずのどの言語も年齢に相応して中途半端になってしまうことを指します。このコンセプト自体は、「どの状態をセミリンガルとすべきか」などあやふやな点があるため批判も多く受けていますが、親の観点からすると「これは避けなければいけない!」」というのが正直なところ。
もしバイリンガル・マルチリンガルにならなかったとしても、母語1つだけはしっかり発達してほしいですよね。
複数言語を使う両親がいれば、子どもはマルチリンガルになる?
さて、我が家は冒頭でもお話しした通り、私が日本語ネイティブで、夫のルッチョはイタリア語のネイティブです。2人とも、英語は第一外国語として学びましたが、お互いのコミュニケーションは基本的に英語です。
我が家のことを知っている友人からは何度となく「マシュー(子ども)はどの言語も習得できるからいいよね」と言われてきました。
しかし現実はそう甘くはなく…かなり頑張らないと、親が話せても子どもがそれぞれの言語を習得するのは難しいと言われています。
複数言語を習得させるための方法は、世の中にたくさんあり、数え始めるとキリがありません。代表的なものがいくつかあり、冒頭で触れたOPOLもその1つです。
代表的な言語施策
複数の言語を子どもに習得させたいと考えたとき、いくつか確立された方法があります。ここでは代表的な方法4つをご紹介します。
One Parent One Language(OPOL)
One Parent One Language(以下、OPOL)とは、1人の親が1つの言語のみを子どもに話しかける施策です。
ここでは”parent(親)”となっていますが、もちろん親ではなくても「特定の人」でも大丈夫です。家庭内での言語戦略に言及することが多いため、「親」の方を一般的に使います。
これは、20世紀末にフランス人言語学者のGrammont氏によって提唱されたもの。子どもが「それぞれの親と決められた言語を話す機会を得られる」というメリットがあります。
例えば我が家の場合、私はマシューに日本語のみを話すところ、ルッチョはイタリア語のみを使って話しかけるわけです。こうすることで、マシューは日本語を話す機会も、イタリア語を話す機会も得ていることになります。
ただデメリットもあり、例えば片方の親とのコミュニケーションが多く、もう片方と話す機会が少ないのであれば、バランスが取れず後者の言語はあまり発達しません。
この「バランスをとる」ことも非常に難しく、必然的に片方の親とのコミュニケーションの方が多くなってしまうことも否めません。また、例えば母子で話している言語に父親が長けていなかった場合、父親は「家族」としてのコミュニケーションに加わることが難しくなってしまいます。
Mixed Language Policy (MLP)
Mixed Language Policy(MLP)とは、家庭内で2つの言語を使って子どもに話しかける方法です。
ときには、1つの文章のなかで2つの言語が使われることもあります。家庭内のメインとなる言語を片方の親が話し、もう片方がメインとサブの両方の言語を使うなどのシチュエーションを指します。
私も一時期そうなっていましたが、留学から帰ってきた人が日本語と英語を混ぜて話しているシチュエーションを思い浮かべるとイメージしやすいかもしれません。例えばカナダのケベック州・モントリオールのように、複数の言語が日常で使われているような場合に、この方法が用いられることが多いです。
ただこの場合、どの言語に触れる時間が増えて特定のルールを設定する必要がなくなるものの、「ここでは何語」や「この人は何語」「こういうときは何語」という決まったルールがなくなってしまいます。そうすると、子どもが「こっちの言語の方が使いやすい」と思ったものだけ好んで使うようになってしまう恐れがあるのです。
複数言語を学ばせたいのに、結局1言語のみ強くなって、他ができなくなってしまったということも起こる可能性があります。
Minority Language at Home
日本に住んでいると、もちろん家庭外での言語は日本語がメインになります。そういった環境下で、もう一つの言語を習得させたいとなったときに、家庭内でマイノリティの(外国の)言語を使うことを「Minority Language at home」と言います。
この画像にもあるように、基本的な日本語の習得は家庭外に任せて、家庭内では英語を徹底する…のようなシチュエーションが当てはまります。
ある研究によると、家庭内でマイノリティ言語を使うことを徹底していた場合、子どものその言語スキルの保持力はそうしていなかった家庭よりも高かったそう。移民家庭などでこの方法を採用することが多い方法です。
Time and Place policy
最後にご紹介するのは、「場所やとき」によって使う言語を変える「Time and Place policy」という方法です。例えば、朝は英語を話して、夜は日本語にするとか、普段は日本語を話していても何かのアクティビティをするときには英語を話すことを徹底する、といったシチュエーションが当てはまります。
バイリンガル幼稚園やインターナショナルスクールに通学している間は英語で、地域や家庭は日本語といった場合がイメージしやすいかもしれません。最近ではサッカーを英語で習えるようなスクールも登場していますから、「サッカーのレッスン=英語の時間」と関連づけることもできるでしょう。
これまでのとこれからの我が家
2019年8月に生まれた長男マシュー。2022年には3歳になりました。
しかしこちらの記事でも触れた通り、2歳8ヶ月の時点ではいくつか言葉は出ているものの、2語文と言い切れるのか…といった具合で、ほとんどが宇宙語。それまでは日本の保育園に通っていることと、日本に住んでいることもあって、家庭内では英語とイタリア語を率先して使うようにしていました。
その後、2歳9ヶ月から11ヶ月までの2ヶ月弱イタリアにいる間は、当たり前ですが周りの環境が一気にイタリア語になりました。このとき日本語の発語の遅れを心配していた私は、「ここで日本語を忘れさせてはいけない」と日本語だけでマシューに話しかけるようになりました。
実は友人の結婚式でマルタを経由して日本に帰ってきたのですが、帰国してしばらく経つまではおそらく頭の中を整理していたのでしょう、ずっと宇宙語でした。
しかし3歳の誕生日目前というときに、いきなり大人でもわかる言葉で話すことが増えたのです。メインは日本語。ルッチョ(夫)がいるときには、英語とイタリア語も少し話しています。
ここで感じたのが、以下の2つのポイントです。
- 第一言語としての母語の大切さ
- 幼少期の言語選択
「母語」とは、その人が最初に覚える言語のことです。
例えばマシューの場合はイタリアの国籍も現在は持っているので、イタリア語と日本語のどちらも「母国語」となり得ます。しかし日本語を最初に覚えたとしたのなら、母語は日本語ですし、日本語とイタリア語を同時に最初に覚えたのなら、どちらも「母語」になるのです。
第一言語は「一番習得が早かった言語」とか「一番得意な言語」という意味合いで使われます。
今のところ、日本で生きていくつもりの我が家。教育においても普通の日本の学校に子供は通わせようと考えているので、日本語能力は必至です。
早期英語教育に反対されている専門家の方々が多数いらっしゃいますが、共通しているのは1つの言語で「論理的思考」をつけるべきだということ。マシューと接するときに英語やイタリア語を完璧に排除しているわけではありませんが、まずは1つ母語を強化して、他の言語をプラスしていく方法が、我が子にはあっているのかもしれないと最近は感じています。
その点で、乳幼児期にはOPOLも良い方法なのかもしれません。実際、現在は私は基本的に日本語で、ルッチョは基本的にイタリア語でマシューとコミュニケーションを取っています。保育園などの環境が日本語なので、日本語が第一言語になってきているといった感じです。
とはいえ、ある程度の年齢になると、外国語の音が聞こえにくくなってしまうので、今後そのバランスもどうしていくべきなのか、悩むのですが。。。4歳くらい、幼稚園に入ったら、「Minority Language at home」か「Time and Place」に変えるかもしれません。
子どもによっても特徴が異なりますし、難しいですね! また変化があったら記事にしてみようと思います!
参考文献:
Bringing up baby
Mixed system 1: A language strategy for bilingual families
How To Raise A Bilingual Child? Systems Make It Simple